多汗症
多汗症とは
多汗症とは、脇や手のひらなどの特定の部位から異常に汗が出る病気です。全身の汗が増加する全身性多汗症と、体の一部のみの発汗量が増加する局所性多汗症に分類されます。最も頻度が高い多汗症である原発性局所多汗症は特に原因なく、頭部・顔面、手掌、足底、腋窩に大量の発汗が起こり、日常生活に支障をきたす状態と定義されています。
症状
多汗症の主な症状は、発汗量の増加です。発汗部位によって、以下のような症状が現れます。
手汗(原発性手掌多汗症)
精神的な緊張により発汗が増加し、手のひらが常に湿っている状態になります。幼少期から思春期に発症することが多く、書物や書類が濡れたり、他者との握手に抵抗を感じたりするなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
ワキ汗(原発性腋窩多汗症)
精神的な緊張や気温・体温の上昇によって発汗が増加し、下着やシャツに汗染みができやすくなります。日常生活に支障をきたすだけでなく、手足の多汗を伴うこともあります。
頭部・顔面多汗症
頭部、顔面から流れ落ちるほどの大量の発汗が見られます。熱い飲食物の摂取後や、精神的なストレスによって症状が悪化することがあります。
足底多汗症
足の裏に大量の汗をかき、靴下がすぐに湿ってしまう、または靴の中で足が滑りやすいなどの症状が現れます。
多汗症の症状の重症度は、以下のHDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)を用いて判定されます。
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない。
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある。
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある。
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある。
HDSSスコアが3または4の場合、重症と判断されます。
原因
原発性局所多汗症の原因は不明です。しかし、多汗症患者の汗腺は、健常者と比較して汗腺の数や大きさに違いがないことから、汗腺の発汗機能が亢進していると考えられています。また、手掌・足底の多汗症は青年期までに発症し、家族歴が見られる場合があるため、遺伝的な要因も関与していると考えられています。
診断
局所多汗症の診断基準には、以下Hornbergerらの基準が用いられています。この基準では、明らかな原因がないまま、局所的に過剰な発汗が6ヶ月以上認められ、以下の6つの症状のうち2つ以上に当てはまる場合に多汗症と診断されます。
- 最初に症状が出るのが25歳以下であること
- 左右対称に発汗が見られること
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
- 家族歴が見られること
- それらによって日常生活に支障をきたすこと
治療
多汗症の治療は、日常生活で汗にお困りの場合に行われます。治療の目標は、汗を完全に止めることではなく、汗のせいで困っていることQOL(生活の質)を改善することです。
以前は多汗症の治療は自費診療が中心でしたが、近年では保険適用の外用薬(エクロックゲル、ラピフォートワイプ、アポハイドローション)が登場し、多くの方が保険診療で治療を受けられるようになりました。
外用療法
外用抗コリン薬
ワキ汗や手汗にお悩みの方に、以下の通り保険適用の塗り薬が3種類あります。これらの薬は、汗腺にあるアセチルコリン受容体という部分にフタをして、汗が出るのをブロックします。
エクロックゲル
ワキ汗の治療薬です。1日に1回、ボトル状の容器に入った薬剤を両ワキに塗ります。 12歳以上の方が使用できます。
ラピフォートワイプ
ワキ汗の治療薬です。1日に1回、1枚のシートで両ワキを拭きます。9歳以上の方が使用できます。
アポハイドローション
手汗の治療薬です。1日に1回、寝る前に両手に塗って、そのまま寝ます。12歳以上の方が使用できます。
塩化アルミニウム外用
自費治療になります。塩化アルミニウムが汗の出口に詰まることで、汗を抑えます。ワキや足の裏、顔面に使用できます。かぶれに注意が必要です。
※当院では扱っていません。
内服療法
プロ・バンサイン
アセチルコリンの働きを抑えて、汗を減らします。顔面や全身の多汗に用いられます。口渇などの副作用や適応に注意して使用する必要があります。
イオントフォレーシス療法
機器を用いた治療です。手や足の裏の多汗症に用います。水の中で電気を流すことで、汗を抑えると考えられています。週に1回程度通院し治療します。
※当院では扱っていません。
ボツリヌス毒素局注療法
主に重症のワキの多汗症に用います。ボツリヌス毒素が、汗を出す神経の働きを抑えて、汗を減らします。
※当院では扱っていません。