メニュー

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹を特徴とする慢性的な炎症性疾患であり、症状の増悪と軽快を繰り返すのが特徴です。
患者の多くは、アトピー素因と呼ばれる、アレルギーを起こしやすい体質を持っています。
アトピー素因には、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかまたは複数の家族歴・既往歴があります。

症状

アトピー性皮膚炎の主な症状はかゆみであり、しばしば左右対称性の湿疹を伴います。
多くの患者で皮膚の乾燥が強くみられ、冬から春にかけて症状が悪化することが多いです。
また、伝染性膿痂疹(とびひ)や伝染性軟属腫(みずいぼ)などの皮膚感染症を合併しやすいのも特徴の一つです。
アトピー性皮膚炎の皮疹は、年齢によって症状、場所が変化します。

乳児期(2歳未満)

顔に症状が出現しやすいのが特徴です。
頬、額、頭に乾燥と赤みが生じるのが始まりで、症状が強いと顔面全体(耳周囲、口囲、顎など)に広がり、頸部、腋窩、肘窩、膝窩などの擦れる部分にも皮疹が出現します。顔の皮疹は生後4~6ヶ月頃にピークを迎え、徐々に落ち着いていきます。

幼児期・学童期(2~12歳)

顔の皮疹は減少し、代わりに首、脇の下、肘、膝裏に皮疹がよくできます。
重症例では顔面や四肢にも皮疹が広がり、掻き壊しを繰り返すことでびらん、傷を作ります。
皮疹を繰り返す部分は硬くなり、痒い塊(痒疹)のようになります。体全体の乾燥が目立ちます。

思春期・成人期(13歳以上)

顔、首、胸部、背部など上半身に皮疹が強く現れる傾向があります。
顔面から頸部に顕著な皮疹が見られる顔面型や、かゆみの強い丘疹が体幹や四肢に多発する痒疹型の皮疹を呈する場合もあります。
重症例では全身に皮疹が拡大し、全身が真っ赤になる紅皮症に至ることもあります。
また長年の経過により、多彩な皮膚症状を認めるようになります。

 

原因

アトピー性皮膚炎の原因は、アレルギー体質(アトピー素因)と皮膚のバリア機能の低下が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

アレルギー体質(アトピー素因)

アトピー素因を持つ患者は、IgE抗体を産生しやすい傾向があります。
Th2細胞などの炎症性リンパ球が活性化され、2型免疫応答が誘導されることで、アレルゲン特異的なIgEの誘導につながります。
アレルゲン特異的IgEを介してサイトカインやヒスタミンなどの化学伝達物質を放出し、炎症を引き起こします。
アトピー素因の既往歴として、喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎などが挙げられ、家族にアトピー性皮膚炎の方がいる場合もアトピー素因を持つ可能性が高まります。

皮膚バリア機能の低下

アトピー性皮膚炎の患者では、皮膚の最も外側の層である角層のバリア機能が低下しています。
角層は、外部からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぎ、皮膚内部の水分を保持する重要な役割を担っていますが、アトピー性皮膚炎の患者では、この機能が十分に果たせません。
皮膚のバリア機能の低下には、保湿に関わるセラミドの減少や、角層の重要なタンパク質であるフィラグリンの遺伝子異常などが報告されています。フィラグリンの減少は、角層の水分保持能力を低下させ、乾燥肌を引き起こしやすくします。
また、皮膚のバリア機能が低下すると、外部からの様々な刺激(唾液、汗、衣類との摩擦など)やアレルゲンが皮膚に侵入しやすくなり、炎症やかゆみを引き起こす原因となります。

診断、検査

アトピー性皮膚炎の診断には、特別な検査は必須ではなく、患者さんの症状の経過と特徴的な皮疹に基づいて診断を行います。
日本皮膚科学会の診断基準では、以下の3つの項目をすべて満たす場合にアトピー性皮膚炎と診断されます。

1)掻痒(かゆみ)がある

2)特徴的な皮疹と分布

  • 皮疹は湿疹病変であること
  • 左右対称性に現れやすいこと
  • 好発部位が年齢によって異なること

3)慢性・反復性の経過:乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上を慢性とする

アトピー性皮膚炎と似たような症状を示す疾患(接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、単純性痒疹、乾癬、疥癬など)との鑑別も重要です。

また必要に応じて、以下の血液検査を行うことがあります。

総IgE検査

アトピー素因の有無を示唆する参考となります。アトピー性皮膚炎患者では高値を示すことが多いですが、正常な方でも高値を示す場合があるため、これだけで診断することはできません。長期的なコントロールが良好であれば低下することがあります。

特異的IgE抗体検査(View39など)

個々のアレルゲン(ダニ、ハウスダスト、食物など)に対するIgE抗体の有無を調べ、原因アレルゲンを推定することができます。しかし、特異的IgE抗体が陽性であっても、必ずしもそのアレルゲンが症状の原因となっているとは限りません。

TARC検査

Th2細胞が産生するケモカインであり、病勢を敏感に反映し、重症度と相関して上昇します。治療による改善も反映するため、治療効果の判定や患者教育に役立つことがあります。小児では年齢が低いほど高値を示すため、年齢別の基準値を参照する必要があります。

 

治療

アトピー性皮膚炎は、年齢とともに改善していく傾向が見られることもありますが、慢性に経過していく病気です。
そのため、治療の目標は、日常生活に支障がないレベルの症状で、薬物療法もあまり必要としない状態を維持することです。
アトピー性皮膚炎の治療は、スキンケアと外用療法を基本とし、症状に応じて内服療法や生物学的製剤、光線療法などを組み合わせます。

スキンケア

スキンケアは、アトピー性皮膚炎の治療と症状悪化の予防において非常に重要です。

保湿剤の使用

皮膚の乾燥はかゆみを増強させるため、保湿剤を定期的に使用し、皮膚のバリア機能を補強することが大切です。
ワセリン、尿素含有保湿薬、ヘパリン類似物質含有保湿薬など、様々な種類の保湿剤があり、患者さんの肌の状態や好みに合わせて選択します。入浴後やシャワー後など、皮膚がまだ湿っているうちに塗布すると効果的です。保湿剤の継続使用は、湿疹の再燃を抑制し、ステロイド外用薬の使用量を減らす効果も期待できます。

 

入浴、シャワーで清潔を保つ

皮膚に付着した汗や汚れは、かゆみや炎症の原因となることがあります。
入浴やシャワーで皮膚を清潔に保つことは重要ですが、ナイロンタオルなどの硬い素材での摩擦は避け、低刺激性の石鹸をよく泡立てて優しく洗い、しっかりと洗い流すようにしましょう。熱すぎるお湯は皮膚の乾燥を招くため、ぬるま湯での入浴が推奨されます。

 

悪化因子の対策

日常生活における様々な刺激やアレルゲンが、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる可能性があります。
唾液や汗はこまめに洗い流すか拭き取る、刺激の少ない衣類を選ぶ、爪を短く切るなどの対策が有効です。ダニやハウスダスト、ペットの毛などが悪化因子となる場合は、室内の清掃や寝具の対策を行いましょう。

 

外用療法

外用療法は、アトピー性皮膚炎の炎症を抑えるための中心的な治療法です。
主にステロイド外用薬やプロトピック、コレクチムなどのアトピー性皮膚炎専用外用薬を使用します。

ステロイド外用薬

皮疹の重症度に応じて、適切なランクのステロイド外用薬を使用します。初期治療では十分な効果が得られるランクの薬剤を使用し、症状が改善したら徐々にランクを下げたり、塗布回数を減らしたりしていきます。顔や首など皮膚の薄い部位には、比較的弱いランクのステロイドを使用します。長期にわたってステロイド外用薬を使用した後、急に中止すると症状が悪化することがあるため、徐々に減量していくことが重要です。良い状態を維持するために、症状が落ち着いた後も、週に数回程度ステロイド外用薬を塗布するプロアクティブ療法も有効な場合があります。ステロイド外用薬の副作用は、適切な使用量と期間を守れば、全身的なものはほとんどありません。

 

プロトピック軟膏

ステロイド外用薬とは異なるメカニズムで炎症を抑える塗り薬で、顔や首などステロイド外用薬の副作用が出やすい部位や、長期的な使用が懸念される場合に用いられます。使用初期にかゆみや熱感などの刺激を感じることがあります。また傷になっている部分には使⽤できません。

 

コレクチム軟膏

JAKと呼ばれる酵素の働きを阻害することで、炎症を抑える新しい塗り薬です。顔面の症状が強い場合、ステロイド外用薬で軽快した皮疹を維持する目的、またプロトピック軟膏が刺激感のために外用できない場合などに用いられることが特徴として挙げられます。

 

モイゼルト軟膏

PDE4という酵素の働きを阻害することで、炎症を抑える新しい塗り薬です。生後3か月から使用でき、コレクチム軟膏と同様な使用方法をすることが多いです。

内服療法

かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬の内服を行います。
抗ヒスタミン薬は、かゆみの原因となるヒスタミンの働きを抑えることで、かゆみを軽減します。眠気が出にくい第二世代抗ヒスタミン薬が主に用いられ、外用療法と並行して補助的に使用され、かゆみの程度や患者さんの病状に合わせて選択されます。

生物学的製剤

近年、デュピクセントをはじめとする生物学的製剤が登場し、重症のアトピー性皮膚炎の治療が大きく進歩しました。
デュピクセントは、炎症に関わるIL-4とIL-13というサイトカインの働きを阻害する注射薬で、従来の治療法で十分な効果が得られなかった患者さんに対して、高い治療効果を発揮します。
当院ではデュピクセントによる治療も可能ですので、お気軽にご相談ください。 その他、ミチーガ、リンヴォックなどの生物学的製剤やJAK阻害薬が、難治性のアトピー性皮膚炎に対して用いられることがあります。

 

光線療法

光線療法(紫外線療法)は、外用療法やスキンケア、悪化因子対策で軽快しない中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対して行われることがあります。紫外線には、皮膚の免疫に関わる細胞の働きを抑制する作用があり、皮疹を改善する効果が期待できます。
主にエキシマライトやナローバンドUVB療法が行われますが、小児に対する長期的な安全性については十分な情報がないため、慎重に行う必要があります。(※当院では現在行っていません。)

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME